アルメニア語は、なぜ2つに分かれているのか

「アルメニア語を学びたい」と調べはじめると、東アルメニア語と西アルメニア語という、似た名前の2つの言語に行き当たる。方言の違いではない。発音も文法も語彙もずれており、現在ではおおむね別の言語として扱われている。

なぜ2つに分かれたのか

アルメニア語は、インド・ヨーロッパ語族の中でどの語派にも属さない、独立した1つの語派を成す言語である。5世紀ごろに文字が作られてから長いあいだ、古典アルメニア語(グラバル)という共通の書き言葉があった。文字が作られた経緯そのものは「アルメニア文字」の記事に譲る。

現在の2つの標準語は、19世紀に別々の土地で整えられたものである。東アルメニア語は、当時ロシア帝国の領域だったエレバン(Yerevan)を含むアララト平野一帯の話し言葉をもとにしている。西アルメニア語は、当時オスマン帝国の中心だったイスタンブールのアルメニア語話者の話し言葉をもとにしている。同じ古典語から、別々の帝国のもとで別々に近代化が進んだ結果、2つの標準語ができた。

西アルメニア語は現在、主にアルメニア国外に離散したアルメニア人コミュニティで使われている。東アルメニア語は、現在のアルメニア共和国の公用語であり、首都エレバンをはじめ国内で日常的に使われている言葉である。

耳で分けるべき音がある

東アルメニア語の破裂音には、日本語話者にはほとんど意識されない区別がある。պ・բ・փという3つの子音は、日本語話者の耳にはパ行かバ行のどちらかに聞こえるが、互いに別の音素として区別される。とくにպとփは、どちらも「パ」に聞こえてしまう。無気無声音(պ、p)、有声音(բ、b)、帯気無声音(փ、p')の3系列で、日本語の清音・濁音という2系列よりも1つ多い。実際のエレバンの発音では、բは典型的に息のまじった有声音(気息性の有声音)として発音され、単純な有声音とは少し違う。

聞き分けられなければ、別の単語として区別できない。この対立を音の波形で測りながら訓練する仕組みを持つ学習アプリが、この言語クラスタの先にある。

文字は405年から受け継がれている

東アルメニア語は、アルメニア文字で書く。405年ごろにメスロプ・マシュトツが作った36の文字が基になっており、中世にօとֆの2文字が加わって、今の38文字になった。1600年前に作られた文字が、今日エレバンの街角の看板にも使われている。文字そのものの成り立ちは「アルメニア文字」の記事で書いた。

東アルメニア語の学習アプリ / アルメニア文字について